正しい姿勢は負担少なく楽:筋・骨の負荷小さい
TVやいろんな健康サイトで
”姿勢をよくすると姿勢を保つための姿勢保持筋が鍛えられるので、代謝が増えて痩せやすくなる”
なんてまことしやかに言われていますが、そんなことありません。
確かに、正しい姿勢を保つには姿勢保持筋の働きが必要ですが、代謝を見るなら体全体の筋肉の活動を考えなければなりません。
首が傾いて頭の中心から重心線からずれるごとに首への負担は増大し、15度ずれるだけでもほぼ3倍にもなります。つまり、正しい姿勢では最も筋力を使わなくて済むということです。
姿勢と筋肉のエネルギー効率
正しい姿勢と悪い姿勢で筋肉の活動がどう変わるのか、考えてみましょう。
わかりやすいように、まずは首の角度だけで見てみます。
首の角度と負荷の関係
首への負担は、まっすぐのとき5㎏程度なのに、よくある下向きでは20㎏を超えている
(Surgical Technology International 2014 Nov;25:277-9. Assessment of Stresses in the Cervical Spine Caused by Posture and Position of the Head; Kenneth K. Hansraj より引用)
首が真っすぐで、頭の中心が重心線上にあるとき、首にかかる負担はほぼ頭の重さそのままの4kg~5kgです。
首が傾いて頭の中心から重心線からずれるごとに首への負担は増大し、15度ずれるだけでも12kgとほぼ3倍にもなります。
頭の重さはほぼボーリングの球と同じ。ボーリングの球を持ち、肘をまげて体の近く(胸の前)にボーリングの球がある状態を想像しましょう(ボーリングで投げる前の構えですね)。ここから徐々に肘を伸ばしてボーリングの球を体から離していくと、肘が伸びるほど重くなり、ずっと腕で支えるのはつらくなりますよね。
首が傾くというのは、まさにそんな状態。そんな重量をどこが支えているのかといえば首・肩の筋肉。
つまり頭が前に出るほど筋肉の活動量は増えます。
猫背でも同じで、猫背の場合は首ではなく背中が曲がるので、肩・背中の筋肉が常に緊張した状態。つまり肩・背中の筋肉の活動量が増えています。
猫背では頭・首・肩の重さが背中にかかる
これに対して正しい姿勢では、頭の重さが背骨に真っすぐかかり、重力の影響を最小にできます。
つまり、正しい姿勢では最も筋力を使わなくて済むということです。
脊柱起立筋などの姿勢保持筋は使いますが、姿勢が乱れた状態と比べればそのエネルギー消費は非常に小さいです。
事実、正しい姿勢といわれる、頚椎前弯が約30度、胸椎後湾が約40度、腰椎前弯が約45度、仙骨底が第5腰椎に対して約40度前傾のとき立位保持のエネルギー消費が最小になります。
姿勢が悪いと筋肉に活動が増える一つの証拠として、猫背の人では背中上部の筋肉が異常に発達して盛り上がっていることがあります。前傾した頭部・頚部の重さを支えるために筋肉が発達するのです。
”筋肉が発達するなら姿勢が悪いとトレーニングになる?”と思うかもしれませんが、筋トレには不向きです。
姿勢が悪い状態では筋肉に力が入った状態、緊張状態がずっと続くわけです。筋肉は緊張・弛緩、つまり伸び縮みを繰り返すことが自然で、動作を伴わない緊張が継続すると血行が悪くなり、コリや痛みを発症します。
正しい姿勢は基礎代謝が上がってダイエットになる、なんてTVやネットで言われることがありますが、大きな間違いです。
ただ、姿勢が悪いほうがダイエットには向いているのかと言えばそうでもありません。姿勢保持に使うエネルギー消費程度では痩せられませんから(詳しくは「正しい姿勢でダイエットの嘘」にて)。
さらに、正しい姿勢のほうが断然スタイルが良くなりますので(詳しくは「姿勢を変えたその時からスタイルはよくなる」にて)、姿勢が悪くて得することは何もありませんよ。
進化から考えても
基本的に、生物はエネルギー消費が少なくなるように進化してきました。背中を曲げたほうが楽なら、それに都合が良くなるように進化すべき。
そのように進化しているのが人以外のサル、類人猿です。
彼らは移動するときは手を地面につけた4足歩行が基本。前方にかかる上半身の重さを背中ではなく腕で支えています。そのため体は前傾していますが、背骨は伸びています。筋肉をなるべく使わず、骨(腕・脚)により重さを支えることで消費を抑えています。
手を付かない2足歩行となった人類が体重を支えるのは足だけ。足のみという狭い面積で筋肉の力をなるべく使わず体を支えるには、足に真っすぐ体の重さをかけることです。
前傾してエネルギー消費を抑えるなら、手も地面につくべきです。
進化から考えても、正しい姿勢で基礎代謝(エネルギー消費)が増えるなんてことはあり得ないんです。
正しい姿勢こそが最も疲れない姿勢です。
正しい姿勢にも慣れが必要
正しい姿勢が最も疲れないのは確かですが、それでも筋肉は使っています。
正しい姿勢のとき、脊柱起立筋や腹横筋といった姿勢保持筋とよばれる筋肉が使われるのですが猫背などの場合これらの筋肉、とくにお腹側の筋肉を使っていないので、慣れていない人は正しい姿勢を長い時間保つことが難しいです。
繰り返すごとに体が慣れて筋肉が強くなり、姿勢の保持が楽になってきます。
また、正しい姿勢でも疲れを感じたら、時折体を動かしたり姿勢を変えたりすることは必要です。